子どもの生活に関すること
妊よう性
妊よう性とは、妊娠するために必要な臓器と機能のことです。妊娠するために必要な臓器は、男性の場合は精巣と精巣内の精子、女性の場合は子宮と卵巣、そして卵巣内の卵子です。妊娠するために必要な機能は、男性の場合は性交渉を行うための勃起や射精の能力、女性の場合は卵子の発育や排卵に関係する能力です。これらの中で妊娠にとって一番重要なものが精子と卵子です。精子と卵子はそれぞれ遺伝情報(体の設計図と考えてください)を持っており、受精することで次世代へ遺伝情報が引き継がれていきます。
妊よう性の温存
がんを治療するための手術、化学療法や放射線治療などが妊よう性を低下もしくは消失させてしまうことがあります。よって治療前に精子や卵子を保存しておき、お子さんが将来お子様をもちたいと希望された時に、必要であれば使えるように準備をしておくのが妊よう性温存です。以下に妊よう性温存の具体的な方法を述べます。
男の子の場合
思春期前後で選択肢が異なります。思春期後で精子産生(造精といいます)が始まっている場合は、精子を凍結することが一般的な方法です。お子さんが目的を理解し希望していること、マスターベーションができること、の2点を満たせば短期間で実施可能です。また、マスターベーションで精子を採取できない場合は顕微鏡下精巣内精子採取という方法があります。しかし実施施設は限られています。思春期前の若年の患者さんなど、造精開始前の場合は精巣組織凍結という方法がありますが、現段階では極めて試験的な治療法です。
女の子の場合
男の子同様に、思春期前後で選択肢が異なります。
思春期後で初経を迎えている場合は卵子を凍結する方法(卵子凍結)と、卵巣組織を凍結する方法(卵巣組織凍結)があります。卵子凍結は卵巣の中の卵子を育てる薬剤(飲み薬や注射)を使って、約2週間程度で卵子を育て、腟からの手術で卵子を摘出します。この方法はお子さんが目的を理解し希望していること、ご病気の治療開始を少なくとも2週間程度遅らせてもご病気の治療の妨げにならないこと、腟からの手術操作が可能なこと、の条件を満たせば実施可能です。一方、卵巣組織凍結は治療までに時間がない場合、腟からの操作が難しい場合が対象となりますが、現時点では臨床試験段階の治療法です。思春期前(初経発来前)のお子さんの場合は卵巣組織凍結の選択肢のみとなります。
妊よう性温存療法にかかる費用やタイミング
妊よう性温存療法の費用は医療保険の適応外ですが、2021年4月から公的助成制度が開始され、経済的ご負担がある程度軽減されるようになりました。詳しくは各都道府県にお問い合わせください。
妊よう性温存のタイミングはご病気の治療が開始される前が最善です。ただしご病気の治療まで時間的猶予がない場合や凍結組織に腫瘍細胞が入り込む危険性がある場合は、その時点でご希望があってもできない場合もあります。その場合に、治療と治療の間や、治療後であっても妊よう性が保たれていて、主治医の先生の許可があり、その時点で妊よう性温存する意味がある場合は実施することもあります。
妊よう性のことについて子どもに伝えると
お子さんが若年であればあるだけ、妊よう性温存について伝えるべきか否か、伝え方、伝えた時に妊孕性温存をするかどうかの意思決定を誰がどう行うのか、という大変難しい課題があります。乳幼児の場合の意思決定は基本的に保護者様にゆだねられています。その場合、その後のお子さんの発育の様子を勘案しながら説明の時期と内容を検討する必要があります。児童期以降の場合は、お子さんの発達や状況に応じて、お子さん自身が理解できるよう説明し、意思決定にも可能な限り関わっていただくのがよいと思います。しかし、児童期は精神発達の途上にあり、その時期にがんと診断された過酷な状況下において、お子さんと保護者様が思いを伝えあい、お子さんにとって最善の選択肢は何かを短期間で決めていくのは大変難しいことです。ご家族だけで悩まず、ぜひ医療者を頼っていただきたいと思います。妊よう性温存をした場合もしなかった場合も、その後の人生においてお子さんと保護者様は妊よう性についての不安を感じられるかもしれません。いつでも医療者にご相談ください。
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- 日本生殖医療学会 患者さん、一般の方へ「関連動画」
- 小児の方向けのわかりやすい説明用の資材等が掲載されておりますのでご活用されるのもよいと思います。
- 日本がん生殖医療学会 「小児がん患者の妊よう性温存」
- 小児の妊よう性温存治療について詳細に記載されておりますので参考にされてください。
- OCjpn(がん治療と妊娠 地域医療連携)
- 各都道府県におけるがん治療と妊よう性温存の連携が検索可能です。相談先に困った場合は参考にされてください。